行動デザインのフレームワーク イントロ (コラム1:津田広和)

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  • YBiTは、活動の柱の一つとして、先進的なナッジユニットが作成したフレームワークについて、日本の自治体職員が分かりやすいようにまとめて紹介しています。ナッジのフレームワークとは、ナッジを自治体などの政策立案や執行などにナッジを活用する指南書のようなもので、大きく分けて2つのパターンがあります[1]
  • 一つ目はチェックリスト型で、ナッジのエッセンスを体系的に整理し、チェック項目のようにまとめたものです。例えば、事業などを立案する際に、それらの項目をチェックすれば、当該事業がナッジのポイントを踏まえているかを確認することができます。英国ナッジユニット(BIT)のMINDSPACE[2]やEAST[3]などがその代表例です。
  • 二つ目はプロセスフロー型で、典型的には、政策課題の特定から、事業の立案、執行、評価までのプロセス全体において、ナッジが適切に反映されるように支援するものです。OECDのBASIC[4]やトロント大学の「実務家のためのナッジ活用ガイド」[5]などがあげられます。
  • それぞれのフレームワークには特徴があります。例えば英国BITのEASTは、ナッジをEasy(簡潔)、Attractive(魅力的)、Social(社会的)、Timely(タイムリー)という4つの柱で整理したチェックリスト型のフレームワークです。分かりやすさと使い勝手では群を抜いており、英国BITが世界各国で何十万人という実務家を対象に研修で活用しています。そこで、YBiTでも定例研究会や研修などで繰り返し活用しています。
  • 次に、OECDのBASICは、政策課題の特定から分析、ナッジ戦略の策定、効果検証までの政策プロセス全てに行動科学を織り込む、最も包括的なフレームワークです。政策課題に対して対症療法的にナッジを適用するのではなく、政策の根本にある課題をしっかり分析してそれにふさわしい行動科学的アプローチを適用することを目標としています。 「病気だからといって焦って対症療法を行うのではなく、しっかり根本原因を特定するのが大事」[6]と作成者が指摘していることから分かるように、政策課題の特定や分析を行動科学の観点から学べる大変貴重なフレームワークです。
  • 日本でもナッジユニットの設立が相次いでいますが、国際的には周回遅れであることは否めません。裏を返せば、目指すべき目標や利用できる材料がそろっているということです。OECD(2017)[7]などが指摘しているように、後進のナッジユニットが最優先でやるべきは既存のナッジユニットの成果をマネすることであり、うまくやれば一気にキャッチアップできるかもしれません。
  • そうした先進事例から学ぶ上で、こうしたフレームワークは大変有用ですが、それぞれのフレームワークに強みや弱みがありますので、使用者の使用目的などに応じて最も適切なものを使い分ける必要があります。
  • これから3回にわたって、YBiTが頻繁に活用するフレームワークである、EAST、「実務家のためのナッジ活用ガイド」、BASICをご紹介します。

執筆/文責:津田広和(YBiTコアメンバー)


[1] 日本版ナッジユニットの分類を参照(http://www.env.go.jp/earth/ondanka/nudge/renrakukai07_1/mat02.pdf

[2] https://www.bi.team/wp-content/uploads/2015/07/MINDSPACE.pdf

[3] https://www.bi.team/wp-content/uploads/2015/07/BIT-Publication-EAST_FA_WEB.pdf

[4] OECD,2019. “Tools and Ethics for Applied Behavioural Insights: The BASIC Toolkit”.https://read.oecd-ilibrary.org/governance/tools-and-ethics-for-applied-behavioural-insights-the-basic-toolkit_9ea76a8f-en#

[5] Kim Ly et tal. “A Practitioner’s Guide to Nudging” http://www.google.com/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=3&cad=rja&uact=8&ved=2ahUKEwiJrcCNpv3kAhWEy4sBHWJ8CcsQFjACegQIABAC&url=http%3A%2F%2Fwww-2.rotman.utoronto.ca%2Ffacbios%2Ffile%2FGuidetoNudging-Rotman-Mar2013.ashx.pdf&usg=AOvVaw2CVtVDRdMTV8ArA56RTfve

[6] Hansen, P. G. (2018). What are we forgetting? Behavioural Public Policy, 2(2), 190-197. https://doi.org/10.1017/bpp.2018.13

[7] OECD. 2017. “Behavioural Insights and Public Policy Lessons from Around the World”(https://people.kth.se/~gryne/papers/OECD_2017.pdf

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