行動デザインの開発協力への応用、その機会と都市の役割(コラム②:高木佑介)

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「新しい価値とはシステムとシステムのあいだ、異文化が摩擦するところに生まれる[1]」、これは東京大学の学部入学式で上野教授が大学における多様性の大切さを説くなかで使った言葉ですが、それと同時にイノベーションの本質を端的に捉えています。もしこれがイノベーションの創出に当てはまるとしたら、行動デザインという1つのシステムと何を組み合わせれば、より大きなインパクトを得られるのでしょうか?このコラムのシリーズでは、特に開発協力に焦点を当て、行動デザインと相乗効果を生み出しうる要素について考察したいと思います。

行動デザインと資源依存理論の視点

開発協力において重要な2つの要素

効果的な開発協力において大切なことは何か?、という問いについては、組織間でもあるいは、同じ組織に所属する個人間でも多種多様な答えが生まれるのではないでしょうか?

開発について学び、携わるなかで、私もこの問いについて考え続けてきました。答えはその時々によって変わるのかもしれませんが、今のところ、2つの要素が特に重要と考えます。1つは、現場で現実に即した実用的な介入を行うこと、2つ目は、介入のために適切な資金を活用することです。

1つ目については、まさしくEBPM(Evidence-Based-Policy-Making)や行動デザインの視点と密接に関係しています。前の記事で書いたとおり、開発協力のインパクトが、ほんの小さな障害によって阻害される、ということはよく報告されています。そういった小さな障害を取り除くために、問題の本質を知り、ナッジのような小さくとも実証された解決策を講じていくことは、極めて重要です。

もう1つの要素、「介入のための適切な資金」も開発の効果を確かなものにするために重要です。この適切な資金とは、その額や貸付条件についてではありません。これは、資金そのものの「色」(あるいは、特性)についてです。この視点には、全ての資金にはその提供者である個人や組織のものの見方や意図、選好などの「色」がついており、それらが資金の受領者や借り手の行動に影響を与える、という考えが前提にあります。

効果的な介入を行い、その効果を維持するためには、組織や開発プロジェクトの資源依存(Resource dependency)の影響について考える必要があります。資源依存理論(Resource dependence theory)は、1978年にPfeffer氏と Salancik氏によって発表され、そこでは、重要な資源への依存が組織の行動に影響を与える、と述べられています[2]。Summerrock氏は、この理論を受けて、「結果として、組織の活動や意思決定は、資源依存の構図によって理解される」、と説明しています[3]

開発途上国の地方自治体や水道事業体のような地方公営企業は、JICAやUSAIDのような二国間援助機関や世界銀行のような国際金融機関から資金を調達、活用するケースが多いため、この視点は極めて重要です。加えて、日本の地方自治体でも近年は国庫補助金や寄付金、そしてクラウドファンディングなどの資金を活用して事業を行うケースが増えてきました。このため、やはり資金調達が事業に与える影響を考えることが必要です。

なぜ資源依存の視点が開発に必要か?

資源依存理論では、プロジェクトの評価の仕方や組織の方向性が組織や開発プロジェクトに充てられた資金の性質によって形作られることを暗示しています。この理論に基づいた顕著な事例がマイクロファイナンスの世界で見られます。資金調達の手段を変えたことで組織の目的が変わり、貧困層の借り入れに論争を巻き起こすほどの高金利を課した事例です。

メキシコで最大のマイクロファイナンス機関、コンパルタモスは、1990年に当初はNGOとして設立されました。このコンパルタモスが2007年、金融サービスを受けられていない人たちに向けてサービスを拡大させる資金を得るため、株式公開を行いました。これにより、コンパルタモスの所有権の構図が変わり、結果として「商業化」されることとなりました。その結果、2007年に53.6%という高いROE (Return on equity)を達成した一方で、105%という高金利を貸し手に課すこととなりました[4]。このコンパルタモスの事例は、当時マイクロファイナンスを貧困削減のツールとみていた支持者から厳しい批判にさらされました。

この事例は、資源依存がどう組織の方向性に影響を与え、開発の効果を変えうるかを表しています。また、なぜ資源依存を考えることが開発協力において重要か、この事例を通じて学ぶことができます。

なぜ行動デザインと資源依存理論が結びつくのか?

行動デザインの肝の1つは、介入段階で行う実証実験とその評価です。私たちは、このプロセスをごく当然のように考えがちですが、仮に資金提供者(ドナー)が実証実験の重要性を理解していなかったら、あるいは「実証に基づく」ということを重要視していなかったら、どうでしょう?その場合は、問題の本質を見つけ出すことも、実証に基づいた政策介入を行うことも難しいかもしれません。

ここで重要なのは、適切な資金の調達が行動デザインを機能させるうえで大切だということです。事業に合った適切な資金を得られれば、自治体や公営企業は実証実験やその評価を、政策介入を行ううえでの前提条件にすることもできますし、それにより実証に基づいた政策の実施が可能になります。

適切な資金調達と行動デザインの相乗効果

近年、事業の社会や環境へのインパクトを図るため、社会や環境への配慮の視点が金融セクターに盛り込まれるようになってきています。ESG投資(Environment, Social and Governanceの視点を盛り込んだ投資)やインパクトインベストメント、社会的責任投資などの手法やSROI(投資に対する社会的リターン)といった指標が生まれています。

行動デザインをよりよく機能させるためには、こうした先行事例から学び、行動デザインの視点を金融システムに盛り込んでいくことも必要かもしれません。例えば、プロジェクトに資金を提供する際に、実証実験の実施を義務付ける、介入がどの程度実証されたものであるかを評価する、などの方法が可能かもしれません。また、同時にドナーに対して、プロジェクトへの資金提供、評価にあたって、行動デザインの視点を盛り込むよう働きかけていくことも重要です。

加えて、Karlan氏と Appel氏の著書では、行動デザインと寄付文化をつなげた興味深い考え方を紹介しています。彼らは、「寄付は、投票と同じ」と主張し、ゆえにどの組織にあるいはどのプロジェクトに寄付するかを決められる寄付者の力によって、効果的な介入を増やすことができると述べています[5]。また、彼らは、アメリカでは、個人による寄付が企業や団体からの寄付額の3倍に達していることを紹介しています。これは、個人が組織に対し、実証に基づいた介入を行うよう促すことができることを意味しています。つまりは、個人間で、実証に価値を置く行動デザインの大切さへの理解が広がれば、寄付をする個人の力によって行動デザインを社会に定着できるかもしれません。

このように、資源依存について考え、金融システムへの行動デザインの取り込みや個人の行動デザインへの理解の促進を図ることで、開発協力における行動デザインの効果をより高めることができるのではないでしょうか。

執筆/分析:高木佑介(YBiT研究会メンバー/横浜市)


[1]上野千鶴子「平成31年度東京大学学部入学式 祝辞」〔https://www.utokyo.ac.jp/ja/about/president/b_message31_03.html〕(最終検索日:2019年9月23日)

[2] Pfeffer, J. and Salancik, G. R. (1978) “The external control of organizations: a Resource Dependence Perspective”. New York: Harper & Row.

[3] Sommerrock, K. (2010) “The resource dependency of organizarions” in Chapter 5 Sommerrock, K. Social entrepreneurship business models: incentive strategies to catalyze public goods provision. Basingstoke ; New York : Palgrave Macmillan.

[4] MIX marketによると、世界のマイクロファイナンス機関のROEの平均値は2016年時点で12.6%*.

マイクロ融資の世界平均は約31%、グラミン銀行は、通常プログラムで16%程度を維持している。(2008年時点)**

*MIX market (2019) “Data and intelligence for socially responsible investors”. [Online] Available at https://www.themix.org/mixmarket [Accessed September 28th, 2019].

** Lewis, J. C. (2008) “Microloan Sharks”. Stanford Social Innovation Review: pp54-59.

[5] ディーン・カーラン、ジェイコブ・アペル(2013)『善意で貧困はなくせるのか?―― 貧乏人の行動経済学』(清川 幸美訳)東京:みすず書房.

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